3/13 日本スゴイの幻想

あれは日本人を油断させるための呪文だったのでは…。いまでは、そんな思いさえ抱いてしまうのが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という言葉である。このタイトルを冠した米ハーバード大教授、エズラ・ボーゲル氏の著書は70万部を超すベストセラーになった。

1979年刊行のこの本は日本的経営の強みや背景を論じ、当時の人々を誇らしい気分にさせた。それはバブル期に絶頂に達し、日本人のメンタリティーに自尊と楽観が根強く残っていく。テレビで盛んにやっていた「日本スゴイ」番組はその象徴だろう。しかしコロナ禍はようやく呪文を解きつつあるらしい。

本社が昨年11月〜12月に実施した郵送世論調査によれば、日本の経済と技術が「強い」と答えた人の割合は3年前に比べ、いずれも17ポイント下がった。技術は75%から58%、経済は37%から20%への落ち込みである。世界とは周回遅れのデジタル化など、災厄のなかで浮かび上がった日本の弱さを実感する人が増えているに違いない。

こうなると、こんどは世の中を自信喪失ムードが覆うかもしれない。しかし、長い夢から覚めて現実が見えるようになったのだから僥倖ではないか。ボーゲル氏は晩年、この国が築き上げたシステムにはまだまだ長所がたくさん残っていると語っていた。尊大と卑屈のあいだを揺れ動いてきた日本人が大人になるチャンスである。