3/24 情報技術の負の側面

小説「モンテ・クリスト伯」にはサイバー攻撃が登場する。歌人情報科学者の坂井修一さんが以前、本紙のコラムで紹介していた。時は19世紀。むろんインターネットはない。手旗信号のように棒の形で情報を伝える「腕木通信」と呼ばれるネットワークが狙われた。

クリスト伯爵が中継所の信号手を買収して「スペインで内乱が起きた」と偽情報を流す。結果、公債を売った仇敵の銀行家が大損害を被る。坂井さんいわく、通信路の情報改ざんという「典型的なサイバー攻撃」とか。デジタルとアナログ。「技術的には大きな落差があるが、人がやっていることに大した違いはない」

痛快な復讐劇とは違い、現代版はずいぶんと始末が悪い。この1ヶ月は特に深刻な被害が目立つ。自動車の生産が一時ストップし、通販利用者の個人情報が大量流出した。不正アクセスでアニメ映画の公開が延期されるにいたっては「子どもの楽しみまで奪うのか」と毒づきたくなる。すべて「人がやったこと」なのだ。

ウクライナの戦火のもとでも、フェイク動画が飛び交う。なにやら技術の負の側面がむくむくと頭をもたげている気がしてならない。坂井さんは最近の著書で、人間社会の「悪」を抑えて「善」の領域を広げるために情報技術は貢献しているのか、と問うた。はたして自信を持って答えられる人は何人いるのだろう。