3/25 スピーチ

福沢諭吉は明治の新しい世の中にとって、言葉の力がいかに大切かを強調した。「学問のすゝめ」の中で「演説とは英語にて『スピイチ』と言い」と説き起こし、「思うところを人に伝うるの法なり」と紹介した。それが大事な場の一つにあげたのが「政府の議院」だ。

ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインを通じ、戦禍にあえぐ国の姿を日本の国会で訴えた。数年前にロシアとの蜜月を誇っていたことへの非難はなく、抑えた調子で語ったのは支援への感謝の言葉だ。思わず起きた議員たちのスタンディングオベーション岸田文雄首相は「決意と勇気に感銘を受けた」と話した。

かたや「現代の皇帝」は先日、侵攻の理由について国民の前でこう言い放った。ウクライナ東部のロシア系住民を「ジェノサイド(集団殺害)から救う」。集会に参加した市民の胸の内を推し量るすべはない。一方でメディアの間にはプロパガンダへの批判の声もある。彼らの耳に、権力者の強弁はうつろに響いただろう。

他の国や他民族を武力でねじ伏せようとする動きは、これまでも世界の各地で起きていた。その多くは、どこか遠い地の出来事のようでもあった。国を開いた日本に福沢がまず求めたのは「一国の自由独立」だった。それを脅かされた国の指導者の言葉が私たちに届いた。いま何ができるのか考えるときだ。自分事として。