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昭和のヤンキーたちは漢字が大好きだった。「夜露死苦」と書いてヨロシクと読ませ、アイ・ラブ・ユーは「愛羅武勇」と殴り書きにした。「愛(あい)死天流(してる)」「仏(ぶっ)恥義理(ちぎり)」などというのもあったそうだ。すごみを利かせたい面々は漢字の持ついかめしさに引かれたのだろう。

令和のいま、デジタル空間には往時の比ではないほど難しい漢字があふれている。たとえば「彷徨(うろつ)く」「狼狽(うろた)える」「戦慄(わなな)く」「躊躇(ためら)う」「蔓延(はびこ)る」「周章(あわ)てる」。なんだか判じ物みたいでおどろおどろしい。変換するとこういう表記が現れるから迷惑だと、漢字学者の阿辻哲次さんが先日の本紙文化面で嘆いていた。

たしかに、手書きのころに「彷徨く」などという表現は見かけた記憶はない。それがネット時代に入って誰もが文章をつづるようになり、書き言葉の常識が揺らいできたらしい。SNSへの投稿を眺めていると、慣用句の間違いも目立つ。店のPRで「手ぐすねを引いてお待ちします」と書かれると、行くのが少し怖い。

多くの人が、ふだんから日本語を気負いもてらいもなく書くようになったことは「疑いもなく素晴らしいことだ」と阿辻さんは指摘している。だからこそ、おかしな表記が日本語のなかに定着することを「心から恐れる」。きょうから新年度が本格的にスタートする。フレッシャーズのみなさん、そこんとこ夜露死苦