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三菱総合研究所理事長の小宮山宏さんが2005年に東京大学長になったとき、最初の大仕事は入学式の式辞を読むことだったという。本紙「私の履歴書」で舞台裏の一部を明かしている。準備を始めたのは就任する数ヶ月も前。幾人かの同僚に相談し、内容を練ったそうだ。

「本質を捉える知」「先頭に立つ勇気」。2つのフレーズを考えたが何か足りない。心に響く言葉とは何だろう。侃侃諤諤の議論の末、「他者を感じる力」を加えることにした。「未来を担う若い人たちに何を語りかけるか、責任が重い」と振り返る。その思いは教え子を迎えるすべての先生に重なるのではないか。

今週、各地で入学式がピークを迎えている。コロナ禍による中止や規模縮小から、徐々に晴れやかな光景が戻りつつあるようだ。3年ぶりに開催した大学があれば、保護者の参加を認めた中学もある。壇上からエールを送る校長や学長の声にも、さぞ力が入ることだろう。背筋をしゃんと伸ばした新入生の姿が目に浮かぶ。

心臓外科医の天野篤さんは、高校の入学式で校長が語った「同じ狭き門なら、より狭き門を選びなさい」の言葉に背中を押されて進むべき道を定め、医師になってからも高度な技術に挑戦し続けた。これからの学校生活では人生の糧になるようなさまざまな人や学びと出会うはず。晴れの日がその第一歩になることを祈りたい。