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1953年、ソ連の最高権力者スターリンが死去した。国葬の準備の裏側で、側近たちが後継の座をめぐり権謀術数の椅子取りゲームを展開する。2018年に日本で公開された英国人監督の映画「スターリンの葬送狂騒曲」は実話をちりばめた皮肉たっぷりの喜劇だ。

ところがロシア文化省は、本作の国内上映を禁じた。映画のパンフレットに、そんな解説が載っている。病に倒れたスターリンを治療するはずの有能な医師は、独裁者の毒殺を企てた容疑で粛正されていた。ヤブ医者しか残っておらず手の施しようがない。思わず笑ってしまう。滑稽な筋書きに当局が立腹したのだろうか。

今月封切りされたロシア映画「親愛なる同士たちへ」が評判だ。1962年、ソ連南部の都市で労働者の大規模なストライキが発生した。物価の高騰に加え、大幅な賃下げに不満が爆発する。しかし、フルシチョフ政権は、同胞に銃口を向け鎮圧した。死者が出たが、真実は長らく隠蔽された。史実に基づくドラマである。

デモに参加した娘を案じる共産党員の母の葛藤を描く。意外なことに、冒頭でロシア文化省の文字が表示された。もしかして、負の歴史にも目を背けず、より良い社会を築く、とのメッセージを込めた国策映画だったのか。でも、多くの人が専制国家の内実を描いた今日的な秀作と受け止めたのではないか。大いなる皮肉だ。