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新聞、ラジオ、テレビなどで昔も今も人気の高いコーナーが身の上相談だという。男女の問題。家庭や職場での葛藤。近所づきあい。小さな世界と分かっていても、当事者にとっては大きな悩みを縷々打ち明ける。読者や視聴者はそこに人の本音を見出し、共感する。

1962年の1年間、読売新聞が掲載した304件の相談を研究したのが、まだ20代だった社会学者の見田宗介さんだ。投稿者の立場や内容を分析し共通点などをまとめ、高度成長の日本で人々が不幸を感じる理由を探る。斬新な手法は学会でも注目された。思想家より普通の人々の日常に関心があると著書に記している。

論文「まなざしの地獄」(73年)では貧困の中で育ち、集団就職で上京した一人の少年の半生を丹念に追う。出生、容姿などへの周囲の言葉や態度から孤立感を深め、後に19歳で連続殺人を犯す。実名で報道されるが見田さんはN・Nというイニシャルで通し、何気なく向けられる他者の視線が人を追い込む過程を描いた。

見田さんの訃報が伝えられ、かつて傍線を引きつつよんだ著作を改めて読み返した。論文、ルポ、文学、哲学を兼ねた独特な文章。論理国語と文学国語の線引きする昨今の文部科学省なら、分類に困りそうだ。享年84。4年前の近著では人類社会に明るい未来を指南する。

越境する知性は直接、間接に多くの弟子を育てた。