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軍艦島の動画が手元のスマホに残っている。長崎港の南西沖18キロメートル。この炭鉱の島は洋上に特異な景観を有し、2015年に世界文化遺産に登録された。ビデオは当時の取材の記録だ。クルーズ船が外海に出るや、波しぶきが乗客を見舞う。注意のアナウンスがひびく。

出航できるかどうか、ギリギリまで見極めが続いた。出航しても船の接岸には厳しい基準があり、やむなく引き返すケースが多いという。なんとか行きたい、見たいとはやる乗客らを、スタッフがやんわりとたしなめていたのを覚えている。北海道・知床半島沖で消息を絶った観光船に、そんな判断が欠けていたのが悲しい。

波が高まるのを案じた同業者の忠告をよそに「KAZU I(カズワン)」は海に出た。それだけでも疑問だが、この船は昨年も2度の事故を起こし、地元でも営業を不安視する声もあったとされる。荒れやすい秘境の海をどう考えていたのか。きのう初めて記者会見した運行会社の社長の土下座が、むなしく見えてしまう。

当局には事故の責任を徹底的に追及してもらいたい。捜索とともに、それが被害者の無念にこたえる道である。あの軍艦島の船内を思い起こせば、多くの人がスマホを手に撮影を楽しんでいた。やはり世界遺産の知床の沿岸を行くこの船でも、同じような光景が繰り広げられていただろうか。直後の暗転を知るすべなく。