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「五月という月は若いものにだけ許された季節ののような気がする」。日本画の大家、鏑木清方は随筆「若葉」にこう記した。鮮やかな緑、強く匂う花々、きらめく光。「美しいけれども今の私にはまばゆすぎる」と嘆く還暦近い画家も、障子を貼り替えこの月を迎えた。

今の季節を若者の青春と重ねる感覚は洋の東西を問わない。5月になると若い頃を思い出す。ビー・ジーズは「ファースト・オブ・メイ」、邦題「若葉のころ」でそう歌う。1969年に発表され、映画「小さな恋のメロディ」でも流れた。古い因習にあらがい、自由を求める子供らの奮闘ぶりが歌と相まって共感を呼んだ。

若者らが手足を伸ばし、誰もが心躍り風薫る初夏。しかし今年は内外から多くの死が報じられ、愁いのムードが強い。観光船の遭難も軍事侵攻も、これから人生で若葉の季節を迎えるはずの子供や若者らが犠牲になった。いずれの件も彼らを育むべき、年長者の身勝手さや無責任さが垣間見え、憤りを禁じ得ない。

国民への奉仕者であるはずの政治のリーダーを、王様のように子供や若者にあがめさせる。そんな映像も海外から伝わる。時代錯誤だと思うものの、自由を尊んできた国々に同種の窮屈さが広がる兆しもある。安全でのびやかな世界を子供らに渡す責任を、大人はきちんと果たしているか。自問すべき5月になった。