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フランスの作家で、SFの父とたたえられるジュール・ヴェルヌは1872年に一本の新聞連載を持った。ある英国貴族が期限までに戻ると友人たちに宣言し、世界へ旅に出る。タイトルは「八十日間世界一周」。新聞の部数がたちまち増えるほど人気を博したという。

スリル満点の物語は、主人公がロンドンを出発して始まる。乗り物を汽車から汽船、ときには象にかえ、一行は横浜にたどり着く。日本人にとって微妙な表現も一部にある。だが優美な着物や花が咲きほこる風景の描写には、ちょっと心がくすぐられる。そこは「太陽の子孫たちが住む」(田辺貞之助訳)土地なのだという。

大型連休で各地がにぎわっている。JR東京駅のショップでも大勢の旅行客が列をなし、店員があちこちで「最後尾」と書いた紙を掲げていた。だがそこに訪日客の姿を見つけるのは難しい。数年前、この国のサービスや景色に目を輝かせてくれた人たちだ。そのニーズに応えようと、新たなビジネスも生まれていた。

ヴェルヌの連載と同じ年、岩倉具視をはじめとする使節団がロンドンに着いた。随行員の1人は、国民が外国に行けば「将来の進路については大いに感じ取れるところがある」(水沢周訳「米欧回覧実記」)と記した。国境を越えた交流を通し人はわくわくする刺激を受け、前に進んできた。そんなときを取り戻したい。