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明治維新で活躍した人たちには、囲碁の愛好家が少なくない。とりわけ有名なのが大久保利通だ。島津久光と懇意にしていた碁の達人のもとに通い、久光に近づくきっかけをつかんだとの逸話が残っている。このころ大久保は一日中碁盤に向かっていたという。

伊藤博文大隈重信なども、囲碁にこだわりを持っていた。選択をひとつ間違えば、新政府の土台が揺らぎかねない時代だった。盤面をじっと見つめて熟考する時間は、日本をとりまく情勢の先の先を読む訓練のときになったのかもしれない。いまも大切な政治と外交の心得だろう。きのう韓国で新しい大統領が就任した。

すかさずアクションを起こしたのは中国だ。王岐山国家副主席を就任式に派遣した。これまで多くの難局を任され、「消防隊長」とも称された重鎮だ。中国外務省は「中韓のより高いレベルの友好協力を望む」と力説する。本音は韓国の新政権が日本や米国に近づくことへのけん制にあるとされている。局面が動き始めた。

新国家の建設に奔走した大久保らも、韓国や台湾、中国といかに向き合うかが焦点だった。囲碁の攻防を左右するのは、碁盤の全体を見渡して判断する大局観だ。いったん打った石を動かす「ハガシ」は反則になる。流動する力のバランスの行方を過たずにどう読み解くか。外交の打ち手がずしりと重い時代になってきた。