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20年前以上前の取材なのだが、今も時折、思い出す。今年1月に86歳で亡くなった児童文学の研究者で作家の松岡享子さんにお会いし「子どもが本の世界に親しむには」との趣旨で、お話をうかがった時のこと。数々の傑作を世に送った松岡さん、意外にもこう口にした。

「外で、友だちといろんなことをして遊んでいる子ほど、本を読んだとき、よく反応する。つまり、書かれていることを、我が身のごとく感じ取る力が強いのです。存分に遊ばせてほしい」。ゲームなどでじっと座ってばかりでは、文字に触れても、生き生き実感できるイメージに変える力が養われない。そう訴えたのだ。

1年で最も過ごしやすい季節。子どもらは若葉の下を駆け、薫る風を浴びているだろうか。先日、校外学習で長時間、外にいた児童の保護者から、「マスクの跡がくっきり残る日に焼けた顔で帰ってきました」との戸惑いを聞いた。屋外でも装着が続けば、松岡さんの言う「本から感じ取る力」も弱まるのではと心配になる。

官房長官が「人との距離があれば屋外でマスクは不要」と述べた。ふた月もすれば、コロナ下で3度目の夏休み。子どもらには野山で思うまま遊び回ってほしい。やがて読解力が育ち、イノベーションや成長の基盤となるかもしれない。吹けば飛ぶよなマスクだが、息苦しさは軽視できず、新たなルールが求められている。