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「若き兵士よ/軍服を身につけたばかりの/少女のキスに酔った経験さえまだないというのに/一瞬にして/血による快感に酔いしれてしまった」。2010年にノーベル平和賞を受けた中国の民主活動家、劉暁波さんの詩の一節だ。獄中で病み、5年前に亡くなった。

天安門広場に集まった学生たちを鎮圧した軍隊の構成員もまた、同世代の若者だった。どうして、こんなことになってしまったのか。深い悲しみが伝わる。詩は続く。「彼らは知らないだろう/一人の愚かな老人が/古い歴史をもつ北京城を/もう一つのアウシュビッツにしたことを」。強権体制への容赦なき批判である。

香港市民は、天安門事件が起きた6月4日に鎮魂の祈りをささげてきた。だが、香港大学のキャンパスにあった慰霊のモニュメントが昨年末、撤去された。苦痛の表情を浮かべる人びとが折り重なる高さ約8メートルの像は、デンマークの芸術家が制作した。反体制的な言動を取り締まる香港国家安全維持法の施行が背景にある。

当局はこの作品に、劉暁波さんが鉄格子の中で創作した詩と同様のメッセージを読み取ったのか。でも、こんな動きもある。台湾の団体が撤去された像を作者の許可を得て、このほど復元した。台北市でお披露目するそうだ。台湾メディアが伝えた。民主化を求めた死者の魂と交信し、遺志を引き継ぐ。そんな覚悟だろう。