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ドイツが初の都市封鎖に踏み切る2020年3月。時のメルケル首相は国民に様々な制限への協力を求めた。ただし「渡航や移動の自由が苦難の末に勝ち取られた権利」であり、その制約は「絶対的な必要性がなければ正当化し得ない」と強調することも忘れなかった。

東ドイツ出身のこの為政者は、国家によって移動の自由が奪われる苦しみに人一倍敏感だったに違いない。それでも新型コロナウイルスの猛威を前に、苦渋の決断を下さざるを得なかった。長く壁に分断された歴史を持つ欧州の人々にとって「どこにでも行ける権利」が、いかに大切であるかを印象づけるスピーチだった。

そういえば近代社会の刑罰の多くは罪人を監獄に閉じ込め、身体の自由を奪う。危険な人物として世間から隔離するだけでなく、苦痛を与える点で処罰にかなうのだろう。だとするなら日本人もこの2年、どれだけの我慢を強いられてきたことか。大げさかもしれないが「鎖国」下で「檻」に捕らわれていたようなものだ。

今月、ようやくその重い扉が開いた。水際対策が緩められ、たくさんの国とコロナ禍の前のように往来できるようになった。未知の出会いを求め、冒険をしに、何かを学ぶため、そして何かから逃げるため、人は国境を越える。いろいろな理由からいまだその自由を手にできない人々にも、早く開放の時が来ることを願う。