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「狂乱物価」という言葉は、第1次オイルショックのころに蔵相を務めていた福田赳夫氏の造語だという。調べてみると、それが飛び出したのは1974年1月12日の記者会見だ。当時の物価高を福田氏はたしかに「狂乱」と表現したが、トーンは意外に冷静なのがわかる。

「現在の狂乱した物価状況は思惑、投機による仮需にあると考えている」。物価は早期に鎮静するとも述べた。もっとも、世間は「狂乱」に強く反応し、切羽詰まった雰囲気に拍車がかかった。この時期の新聞は値上げをめぐる話題づくめだ。まあ落ち着いてと言われても、店先の値札にうんと身構えるのが生活者だろう。

そのころとは比較にならないが、久々の値上げラッシュである。スーパーで即席麺の5食パックが528円。思わず手が引っ込むのだから、長年のデフレ感覚は抜きがたい。往時と違うのは、やがて給料も上がるという見通しが持てぬことである。74年春の賃上げ率は33%。これまた狂乱なのだが、理にはかなっていた。

そういう期待が持ちにくいと、消費者は結局買い控えに向かう。まず物価が「安いニッポン」を脱しつつあるなら、次はなんといっても賃金アップが必要だ。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、4月の実質賃金は前年同月比の1.2%減という。造語の名人の傑作を借用すれば、暮らしの先行き「視界ゼロ」である。

 

ここ最近、値上げの波が押し寄せている。スーパーで5食パックの即席麺が528円。思わず手が引っ込むのだから、デフレ感覚は抜きがたい。問題は賃金アップの見通しがないことだ。1974年ごろの「狂乱物価」と言われた時期は、賃上げ率が33%だった。賃上げの期待が持てないと、消費者は結局買い控えに向かうのである。厚生労働省の毎月勤労統計調査によれば、4月の実質賃金は前年同月比で1.2%減。かつて「狂乱物価」という造語を生み出した福田赳夫氏の言葉を借りれば、暮らしの先行き「視界ゼロ」だ。