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この季節を代表する花といえば、アジサイやアヤメ、バラなどが思いつく。栗の実は秋の季語だが、その花は今が盛りだ。どのような姿かご存じだろうか。「世の人の見つけぬ花や軒の栗」とは芭蕉の句である。世間の人びとがほとんど注目しないこの花をたたえている。

東京都三鷹市などに広がる野川公園を訪ねると、黄白色の15センチほどの穂のような花が群れ咲いていた。雨に打たれ、少し散り始めている。「クリ ブナ科」の表示板がなければ、それとは知らずに通り過ぎるところだった。入梅のころに栗の花が落ちる。「栗花落」と書いて「つゆり」と読むそうだ。難読人名のひとつだ。

でも、人気アニメ「鬼滅の刃」に栗花落カナヲという女性剣士が登場し、認知度は若い世代を中心に高まっているらしい。そういえば、今年の春の叙勲の名簿にも、この風雅な響きの姓があった。お目にかかったことはないが、結構おられるのだろう。自己紹介の際には名字の読みや、由来などを繰り返し説明したはずだ。

きのう、東北地方の全域が梅雨入りした。梅雨のない北海道を除いて列島は本格的な雨の季節を迎えた。梅雨の水を飲んでうまみが増すといわれる魚類はハモやイサキ。イワシもいい。今夜あたり旬の食材で一献傾けようか。雨雲が災いをもたらさずに、農作物の生育や人びとの暮らしを支える慈雨となることを願いつつ。