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1970年の映画「家族」はほろ苦いロードムービーだった。北海道の開拓地での生活に希望をたくす一家が長崎の島を出て、高度経済成長にわく日本列島を旅する。赤ん坊と幼い息子を連れ、老いた義父をいたわるしっかり者の若い妻を倍賞千恵子さんが演じていた。

それから半世紀あまり、公開中の映画「PLAN75」の主役は78歳の女性だ。倍賞さんふんするミチは、同世代の女友達らとホテルの清掃員をしながら自活している。しかしささやかな暮らしは仕事を失ったことでほころび始める。身寄りのないミチは行き場をうしない、政府が導入した制度「プラン75」の利用を決める。

それは社会の高齢化を押しとどめるための制度で、75歳になると「安楽死」を選べる。支度金10万円がもらえ、心のケアも受けられる。窓口の担当者は保険の加入でも勧めるかのように「心安らかな旅立ち」の内容を説明するのだ。まさかと思って見るうちに、どんどん背筋が寒くなる。現代日本ディストピア映画だ。

プラン50や60があったら早めに申し込む、迷惑をかけて生きるのはイヤ。映画にはそんな感想も寄せられているという。高齢者を追いつめる社会の非情こそがメッセージであるはずなのに。倍賞さんら日本の発展をになった世代が目の当たりにする現実。必死に生きる人々へのエールだった「家族」の苦い続編である。