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あふれるように、という表現ではまだるっこしい。噴き出すように短歌ができるようであった」。俵万智さんのデビューを後押しした佐々木幸綱さんは、「サラダ記念日」の跋文にこう記した。1987年刊。たびたび読み返すが、噴き出す言葉の勢いは強烈だ。

表題作は、たぶん日本で一番有名な短歌だろう。「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」。毎年、きょう7月6日が巡るとつい口に出してしまう。バブルに突入する時代の、浮き立つような世の中を回想する人も多いはずだ。「ナイターの風にふかれている君のグレープフルーツいろの横顔」

男女雇用機会均等法の施行前後だが、男たちは威張っていたようである。「『嫁さんになれよ』だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの」。いや、こういう物言いは転換期のあがきだったのかもしれない。「『平凡な女でいろよ』激辛のスナック菓子を食べながら聞く」。昨今ならモラハラと責められようか。

80年代半ばごろの空気を濃密に感じさせながら、表現は少しも古びていない。ニッポンがじわり衰退してきた歳月。そんな変化をくぐり抜けてきた「三十一文字」の威力である。ふとページをめくれば「思い出はミックスベジタブルのよう けれど解凍してはいけない」。郷愁にひたるのをたしなめられたようで、ぎくりとした。

 

「『この味がいいね』と君が言ったから、七月六日はサラダ記念日」。俵万智さんの代表的な短歌だ。毎年7月6日が巡ると、つい口にしてしまう。「『嫁さんになれよ』とカンチューハイ二本で言ってしまっていいの」「『平凡な女でいろよ』激辛のスナック菓子を食べながら聞く」。80年代半ばの空気を濃密に感じさせながら、表現は少しも古びていない。ここから衰退をたどるニッポンを三十一文字はくぐり抜けた。