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評論家の犬養道子さんは1932年の五・一五事件で祖父の犬養毅首相が銃撃されたと聞き、現場の官邸に駆けつけた。詰めかける大勢の警官。「子供心にもそれは、笑うべき無駄な手遅れの警護であった」。後に著書で厳しく突き放している(花々と星々と)。

襲撃犯の海軍将校らはタクシーで官邸を訪れた。松本清張の「昭和史発掘」によれば、さりげないふうを装い、応対した職員には「首相に面会したい。電話はしてある」と語りかけた。結局問答の途中で拳銃で脅して押し入るのだが、虚をつかれた警護側は後手に回った。侵入は阻めず首相は射殺され、政党政治は瓦解する。

常にゼロか100、結果がすべてという要人警護はいつの世も難しい任務だろう。それでもその重要性からすれば、今回の事態の究明は欠かせまい。警察庁が検証チームを立ち上げた。安倍晋三氏を撃った容疑者も、なにげないふりをして近づいたようにみえる。どのタイミングで制止できたのか。責任はどこにあるのか。

清張は五・一五事件を、わずかな人数で要人を容易に攻撃できる可能性を証明した点で「狙われた側にも一般国民にも恐怖は深刻だった」と書いている。事件から90年、その恐怖は繰り返された。動機はどうあれ、暴力で他者を排除するのを許せば、社会は崖を転がり落ちてしまう。二度と再発させない覚悟の検証を待つ。

 

いつの世も要人警護は難しい任務だ。常にゼロか100、結果がすべてだ。それでもその重要性からすれば、今回の安倍晋三氏の銃撃事件について検証は欠かせないだろう。どこで制止できたのか、責任はどこにあるのか。五・一五事件で射殺された犬養毅首相の孫である、犬養道子さんは後に「笑うべき無駄な手遅れの警護だった」と厳しく突き放した。90年経って、恐怖は繰り返された。二度と再発させないために覚悟の検証を待ちたい。