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1970年代、戦争の傷を忘れたふりをして生きる大人が大勢いた。吉田拓郎さんの歌「落陽」の一節にフーテン暮らしの老人が出てくるが、息子は戦争で殺され、自身は反戦活動で追われ妻にも逃げられ流浪の生活を送る男性がモデルだ。61年の三橋美智也さんの「雨の九段坂」には靖国神社で「せがれを許せよ」と思う母親が登場する。お国のための死といえども、それは母親の真情ではない。だが戦いを否定すれば息子が浮かばれない。

かつて多くの日本人がこのようなやるせなさを共有していた。いまは海の向こうで子を亡くす親が増え続けている。(253文字)