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77年前、東京大空襲で下町が焼けた。生き残った人は上野駅に集まり地下道で1千人が暮らし始める。1割か2割は親を亡くした子だ。家族を捜そうと上京むなしく帰る人が「代わりに食べな」とおにぎりをくれた。石井光太さんのルポ「浮浪児1945-」はそんな体験談を紹介する。しかし敗戦で状況は一変する。心の支えを失った大人たちは別人のように冷たくなった。「浮浪児」という蔑称それ自体が子供に向けられた視線の温度を示す。詩人の長田弘さんは、記憶とは自分の心に自ら書き込み培うものだといった。書物に残る先人の体験をきちんと心に刻み、育みたい。(262文字)