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ことしのプロ野球シーズンが最終盤を迎えている。リーグ優勝や個人の記録を伝えるスポーツ面の隅で、選手の引退が報じられている。爽やかな笑顔でバットを置くスターがいれば、記者会見もなくそっとグラウンドを去る後ろ姿もある。それぞれの引退模様だ。

かつて「後悔などあろうはずがありません」と胸を張ったのはイチローさん。王貞治さんは「自分のバッティングができなくなった」と口にしつつも、あと32本だった900本塁打への未練を隠さなかった。野球に限らずアスリートの去り際の弁は胸を打つ。簡潔な言葉の陰に努力や苦悩の痕跡が見え隠れするからだろう。

比べるのは選手に失礼かもしれないが、こちらはどうか。新型コロナウイルス対策の接触確認アプリ「COCOA(ココア)」が年内に停止するという。今週から始まった感染者の全数把握見直しで必要性がなくなったためだという。2年前に鳴り物入りでデビューしたものの、最初から不具合続き。感染抑止の効果も定かではない。

泣かず飛ばすだった背景について、いくつもの理由が挙げられている。専門人材の不足や無責任体質だった組織…。つまり育成方法や采配に問題があったのだ。物言わぬアプリに代わって心情を想像してみる。「ベンチがアホやから野球ができへん」。なぜか阪神の元エース、江本孟紀さんの「明言」が浮かぶのである。