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「音楽なんか無駄なんじゃ。そいじゃけえこそ、いつまでも輝いとる」。津原泰水さんの小説「ブラバン」にそんなせりふがある。舞台は広島。高校のブラスバンド部で活動した主人公たちは40歳を過ぎ、仲間の死を機に演奏会の開催をめざす。その過程で出た言葉だ。

学校のブラバンなんか下手でいい。大勢で必死にでかい音を出せばいい。無駄な時間だったと悔いたが、今は「それでえがった」と思う。若いころ何かに熱中した人ほどうなずくだろう。目を閉じるといつも寄り道、回り道ばかりが心にうかぶ。小椋佳さんの歌「道草」にもそんな一節があった。

海外の若者に日本の漫画やアニメが人気が高い。理由のひとつが作品の描く学園生活への憧れだ。部活、学園祭、合宿、修学旅行。これらの文化に打撃を与えたのがコロナ禍だ。授業はオンラインで代替したが、皆で大声を出し演奏をするといった体験はしにくくなった。行事の多い秋を迎え、一部でなお警戒が続く。

先日「ブラバン」の作者、津原さんが闘病の末亡くなった。少女小説、推理、SF、幻想物と幅広い作風で多くの読者をとらえた。生きるのが下手な人、集団のはみ出し者らにも温かい目を向ける青春物の代表格が「ブラバン」だ。若者だけでなく親や教師もぜひ手にとってほしい。若き日の無駄の価値を思い出せる。