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ロシアが一方的にクリミアを併合した2014年3月、若田光一さんは地上から400キロ離れた国際宇宙ステーションの船長に就いた。滞在する6人の飛行士のうち5人はロシア人と米国人。率いるのは正直、難しかったと4年前の日経新聞夕刊のコラムで語っている。

宇宙でも、テレビニュースはライブで見られる。NBCの報道を聞いている米国人と、チャンネル1から情報を得ているロシア人とでは当然、事態の見方は異なる。若田さんは米国の仲間と食事を共にし、次にロシアの居住棟を訪れてお茶をするなどして両者の親交に努めた。連携と運用に支障が出れば即、命にかかわる世界だ。

「地球にいない地球人は我々6人だけだ」。こうメンバーには言葉をかけていたという。もし核戦争や大きな災厄に見舞われ人類が滅んだりしたら、最後の生き残りになる。反目している場合ではない。そんな思いだったろう。ロシアが今度はウクライナ4州を併合、核で威すなか、奇しくもまた宇宙空間に身をおく。

著書「続ける力」に「私たちが宇宙へ行く究極の目的は、人類が種として存続するための危機管理の営み」と記している。核の使用や温暖化を止めないと、この星は近い将来生存に適さない場所になる。人類は生き延びるという使命を負った人の目に、地上の狭い領土を求めて血を流す「皇帝」はいかに小さく映ることか。