10/16 出勤かリモートか

「あなたはあまり会社に来ないからわからないと思うけど」。会議の場でこんなけん制球が飛ぶことがあるという記事を読んだ。出社組とテレワーク組が混在する場で、前者が後者に反論したい際に用いる。社内事情に疎くなりがちな在宅派の弱点を突く作戦だ。

出勤再開かリモート継続か。上司と部下、あるいは社員同士で今、意見が分かれたり対立したり。企業の方針もまちまちだ。スタジオジブリの月刊誌「熱風」最新号で精神科医、アンデシュ・ハンセン氏がスウェーデンの近況を紹介している。経営者は出勤を求め、社員は予想外に従っている。理由の一つは孤独だという。

もともと人類は孤独に弱い。そのため言葉だけでなく細かい表情や身ぶり手ぶりから相手の意図をくむ能力を培ってきた。リモートではこうした非言語情報が得られず、帰属意識を持ちにくい。ハンセン氏の解説に、なるほどと思う。握手などの接触や一緒に笑うことも仲間意識を育むが、これらもリモートで失われたとみる。

学校や研究の場はどうか。批評家の東浩紀さんがコロナ下に書いた「ゲンロン戦記」で、授業や会合を終えた後の雑談が消えたと嘆く。無駄に見える交流が教育には欠かせないが、大学は不要と認定した。このことの「長期的な負の影響」は大きいと説く。便利さと効率性を生かすと同時に、失う物もそろそろ点検するときか。