10/17 中国の若者たちの希望

今から20年以上前、多くの中国人が一本の映画に涙した。舞台は1980年代の香港。中国がまだ貧しかった頃、夢を抱いてこの地に渡った男女が出会い、運命に翻弄されてすれ違う。タイトルは「ラヴソング」。10年に及ぶ、切なくて美しい恋のストーリーだ。

物語は終盤、90年代の半ばのニューヨークに舞台を移す。米国に流れ着き、ひっそりと暮らしていた二人が再会するまでが描かれる。そこで登場するのが、中国から訪れる大勢の観光客。自由の女神をバックに写真を撮る姿が、その後の発展の予兆と映る。この国が世界の工場になり、爆発的な成長軌道に乗る前夜の光景だ。

5年に1度の中国共産党大会が北京でスタートした。当初基盤の弱さを指摘する声もあった、習近平総書記だが、権力闘争をへて地位を盤石にし、異例の長期政権が確実となっている。国はこの間に豊かになったものの、民主化という言葉はいまや忘却のかなたに消えた。目立つのは、国内外に向けられる居丈高な姿勢だ。

香港の自由を力ずくで押しつぶし、ますます高まる欧米や日本との緊張さえいとわなくなった。いずれもかつて中国の若者たちが、両手のカバンに希望を詰めて向かった場所だ。映画の冒頭、主人公はマクドナルドやキャッシュカードを香港で初めて見て目を輝かせた。彼らが夢見たのは、こんな未来ではなかったはずだ。