10/31 梨泰院の惨事

「歩くのが楽しい街よ」。日本でも大ヒットした韓国ドラマ「梨泰院クラス」に、主人公がハロウィーンでにぎわう夜を歩く場面がある。カメラが見下ろす雑踏は波打ち、狭い路地が埋まる様子が画面いっぱいに広がる。まさにこの街で、これほどの惨事が起きるとは。

繁華街のソウル・梨泰院で、集った人たちが倒れ多数の死傷者が出た。群集雪崩か。圧力で体が浮いた、倒れた人の山が大人の背丈ほどもあった。夏祭りの人出で起きた2001年の兵庫県明石市の歩道橋事故では、恐怖の瞬間の写真が残る。検証によれば幅1メートルあたりの荷重は400キロ。抗うのは不可能だったろう。

古代ケルトの祝祭だったハロウィーンは、大英帝国から新大陸の米国へとわたり、20世紀に商業的に急膨張する。さらに今、世界中の消費者への「一大ヒット輸出品」になっているのだという(リサ・モートン著「ハロウィーンの文化誌」)。日本でも近年、子供から大人まで盛り上がる様子には目を見張るものがある。

事故があった土曜夜、渋谷も仮装した若者であふれていた。新型コロナの制約が外れ、訪日客も目立って多かった。黒い人波が揺れる交差点で、DJポリスが「立ち止まらないで」「前の人を押すとけがにつながります」と叫び続けていた。ハロウィーンは今日が当日だ。安全であってこその祝祭だろう。