11/3 盆踊りの伝統

東京23区内の盆踊りは、オンシーズンに1千件近くもあるそうだ。幕開けは6月の赤坂・日枝神社。踊り納めは10月に日本橋かいわいで開かれる「べったら市」での盆踊りだという。熱烈な「盆オドラー」で知られる佐藤智彦さんの著書「東京盆踊り天国」に教わった。

人が大勢集まる盆踊りはしかし、突然のウイルス禍の直撃を受けた。第7波が襲ったこの夏も、多くの祭りが苦渋のなかで3年連続の中止に追い込まれている。それだけに、海外から届いた吉報はひとしおの励みになろう。盆踊りなどとして伝承されてきた全国41件の「風流踊(ふりゅうおどり)」が、ユネスコ無形文化遺産に登録される。

風流は華やかで人目をひくさまをいう。対象の祭りは歴史も長く、国の重要無形民俗文化財にもなっている。他方で都市の街角で高度成長期に始まったような、控えめな盆踊りの魅力も捨てがたい。先祖の霊を慰め、厄を祓(はら)い、安寧を祈る。風土が培った意識は祭りの新旧、大小を超えて通底する。どちらも大切にしたい。

最近は若者が音頭を取った「進化系」の盆踊りも増えているのだという。作家の五木寛之さんは、祭りは伝えられるものだけではないと書いている。「新しいわれわれの時代の祭りを、創り出すこともまた、一つの祭りではあるまいか」(「祭りとの再会」)。伝統を守りつつ、もう一歩踏み出す。文化を豊かにする路(みち)だ。