11/2 短詩に宿る言霊

先週末、横浜市神奈川近代文学館連句会があった。参加者が五七五の長句と七七の短句を交互に詠み、ひとつの作品世界を完成させる。松尾芭蕉は各地で連句の会を催し、門弟を育てた。最初の句(発句)の情景から、短詩の小宇宙を創造する「座の文芸」である。

選者は文化功労者に選ばれた作家の辻原登さん、歌人小島ゆかりさん、俳人長谷川櫂さん。これは、すごい。発句は辻原さんの「夏草や刈つても刈つても生えて来る」。自宅近くの農家の女性の言葉だという。次は櫂さん。「戦車を襲ふ黒山の蟻(あり)」とつなぐ。ロシアの兵(つわもの)どもを迎え撃つウクライナの軍勢が想起される。

まず、選者が冒頭の6句を披露し、参加者が7句目以降を投句する。会場には老若男女、幅広い世代の愛好家が集まった。前句の余韻を生かしつつ、次の句で局面を大胆に転換するのが作法だ。創作の持ち時間は2分。瞬発力が試される。季節は夏から次の春へ。合作の文芸は3時間30分に及んだ。素晴らしい午後だった。

2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は、季節を春、夏、秋に移し、間もなく厳冬を迎える。ロシア軍は冬将軍を前に、無人機などで発電所などインフラを攻撃する。市民は停電や断水に苦しむ。連句は会場からの次の投句で締めくくられた。「バス停で待つすべての春を」。市井の人びとの短詩に宿る言霊を信じたい。