11/8 要注意の人事選び

「企業のトップはどのような人間を重用する傾向があるか」。イオン(旧岡田屋、旧ジャスコ)を草創期から担い、5月に106歳で死去した同社名誉顧問、小嶋千鶴子さんが著書でこう問うている。答えは、真実を真実として伝えない虚構性の強い人間なのだという。

特徴について「都合の悪い部分は打ち消し、一部分だけをもって真実にしようとする」とか「現在の不利な状況が、他人の失敗によってもたらされていると必ず告げる」ことなどをあげている。この要注意人物、自らの担当部署の失敗も、己の責任ではないと信じ込むそうだ。トップの周囲から排除すべし、と手厳しい。

あまたの従業員らと面接を重ね、働きぶりを見守り続けてきたゆえの眼力だろう。先月以降、政府や自民党では、岸田首相が31歳の長男を秘書官にしたり、旧統一教会との問題で事実上更迭された閣僚が、数日後に党のコロナ対策本部長に就いたり、人事の迷走と指摘された。小島さんの経験則があたっていなければ幸いだ。

こんな一節もある。「部下の不平は成長の証し。その本質を見分ける知性と押さえつけぬ寛容さが上の者には欠かせない」。権限の移譲と分権化の心構えらしい。世界的な情報基盤を築きながら、買収や人員削減で大揺れの海の向こうのIT企業。大きな社会的責任の行方も気になる。小嶋さんいわく「商いは公のこと」。