11/7 医療逼迫対策とは

江戸の頃、今でいうインフルエンザが流行ると世相を映したあだ名がついた。「お駒風」「アンポン風」等。天明年間の「谷風」は第4代横綱谷風梶之助に因んだものだ。「倒れているのを見たければ儂が風邪にかかった時に来い」。負け知らずの力士はこう嘯いた。

ところが、本当に流感にかかり現役のままこの世を去った。無敵の大横綱を倒した病を江戸の人々は「タニカゼと呼んで恐ろしがった」(北出清五郎、水野尚文編「相撲歳時記」)。このところ新型コロナのせいで影を潜めていたが、今冬は久々に大流行する可能性が高いと聞く。1日に最大30万人の患者数予測もある。

筆者も3年前にかかり、39度の高熱と関節の痛みに苦しんだ。何も喉を通らない。ありがたかったのは家の近くの病院で診てもらい、よく効く薬をもらえたことだ。医学の力にしみじみと感謝した。しかし、今年は少し様相が違う。熱が出てもすぐには医療機関には行かず、自宅で療養してほしいと国や自治体は呼びかける。

コロナの「第8波」がやってきた場合に、医療機関が逼迫するのを防ぐためである。でも何かおかしくないか。人々がいつでも病院に行けるようにすることこそ、医療を守る目的のはずだ。受診控えが対策とは本末転倒である。コロナがなかなか「普通の風邪」にならない間に誰もこの国を医療大国と呼ばなくなった。