11/9 時短至上主義の裏側

フジテレビ系のドラマ「silent(サイレント)」が、若い世代に人気だという。毎週の放映直後からネットに感想が多数投稿され、撮影したカフェに行列ができる。真犯人は誰だ、その手がかりは、といった最近よくある推理モノとは違う。静かな恋愛の物語だ。

高校卒業後に別れたカップルが8年後に再会するが、男性は聴覚に障害を抱えていた。制作者らは派手な展開ではなく人物の感情をきめ細かく描き、早送りで筋だけ追ったり、横目で「ながら見」したりするのに向かない作品に仕上げた。20代の新人脚本家の起用も若い視聴者が共感できるせりふにつながっている。

丁寧に作られたものを、時間や手間をかけてきちんと味わいたい。そうした消費の広がりをよく目にする。コーヒー豆を店頭で焙煎し、1杯ずつ手で入れるカフェが増えている。アナログレコードとプレーヤーを客室に置き、懐かしい音楽を楽しめる客室も登場した。客だけでなく経営側に若い世代が目立つ点も面白い。

映画を倍速で視聴したり、歌に冒頭からヤマ場を求めたり。若者のそんな行動が時短至上主義として注目を集める一方で、「silent」のようなじっくり型の作品に支持が広がる。メリハリをつけ、共感できるものや大事な体験だけに時間を割きたいということではないか。「最近の若者は」論には危うさもある。