11/12 私たちの星を守る

先日、初めて高速バスの一番前の席にすわった。温泉行きの、のどかな旅の朝である。眼前に広がる青空いっぱいに、ひつじ雲が群がり踊る。リズミカルに散らばる柔らかな白が、紫がかった天空のキャンバスの色を際立たせていた。深まりゆく季節ならではの情景だ。

▼ふと松田聖子さんが歌った「瑠璃色の地球」(1986年)を思い出した。●(歌記号)争って傷つけあったり/人は弱いものね(中略)/ひとつしかない/私たちの星を守りたい……。恋の歌であり普遍的な愛の歌。まだ世の関心が薄かった地球環境問題への想いも詞に込めた、と作詞家は「松本隆のことばの力」に明かしている。

▼人類が一致団結して世界を温暖化から守ろうと宣言したのは、92年の地球サミットが最初だった。それから30年。国連の気候変動対策会議(COP27)が開催中だが、かつての誓いは力を失いつつあるかにみえる。「我々は気候の地獄への高速道路をアクセルを踏んだまま走っている」とグテレス事務総長は演説で訴えた。

▼本来ならスピードを落とし、進路を変えて別の道を行かなければいけない。なのに、現状は理想から遠のくばかりだ。戦争、エネルギー危機、インフレ。足元にある難題に向き合うのに精一杯(せいいっぱい)で、みな未来を思う余裕がない。この碧空(へきくう)をいつまで仰ぐことができるのだろう。「秋の雲はてなき瑠璃の天をゆく」(山口誓子