11/13 指点字での対話

指点字」をご存じだろうか。目と耳いずれも不自由な人向けのコミュニケーション手法だ。相手の手に自分の指を重ね、点字タイプライターに見立ててタップする。左手の人差し指で打てば「あ」、といった具合だ。慣れるとかなりの速さでやりとりできるという。

盲ろうの東京大教授、福島智さん(59)の母令子さんが約40年前に考案した。福島さんの半生を描いた映画「桜色の風が咲く」が公開中だ。9歳で視力、18歳で聴力を失う我が子を、小雪さん演じる母が懸命に支える。暗闇と静寂に支配される世界で互いを分かり合うための手探りが、新しい対話の術を編み出してゆく。

福島さんが「指先に新たな宇宙が生まれた」と振り返る指点字だ。が、そんな母子の絆の結晶にまで、新型コロナ禍は影を落とした。「密を避けろと言われても、そもそも手の届くところにいないとコミュニケーションができない。私のような人間は完全な孤独になってしまうんです」。福島さんは苦しい状況を明かす。

第8波が兆している。2週間で第7波のピークを超す予測もある。人と人とが分かたれる時が、またやってくるのか。障害があってもなくても「対話は魂にとっての水や酸素のようなもの」と福島さんはいう。コロナは図らずも、そばにいられる貴さを浮き彫りにした。安心して手と手を重ね合わせる日常を心待ちにする。