11/24 タートルネック

写真家の林忠彦は戦後まもない時期から、文士の肖像を撮り続けた。被写体になった作家たちの多くは粋な着流し姿である。それが1960年代後半ごろの売れっ子となると、ずいぶん雰囲気が違ってくる。首をすっぽりと覆うタートルネックのセーターが目立つのだ。

そのころ大流行した装いである。開高健、安部工房、遠藤周作丸谷才一といった面々がみな、いわゆる「トックリ」姿だ。いまもタートルネック姿でよく登場する五木寛之さんは当時からこれがキマっていた。昨今でも廃れてはいないファッションだが、60〜70年代には男女問わず、誰もが1枚や2枚は持っていたはずだ。

そんな光景が、東京都庁でにわかに復活しているというニュースを見た。冬場の電力不足対策として暖房使用を控える「ウォームビズ」を小池百合子知事が推奨し、記者会見では「首回りを温める効果」があるとタートルネックに言及したせいらしい。鶴の一声でトックリセーターを買いに走った職員も少なくないだろう。

かつて小池さんはクールビズを提唱し、定着させた。その成功体験があるようだが、具体的なスタイルまで指南とは、はて…。カジュアルながら上品さも漂うタートルネック。往年の作家が自由に着こなし、近年ではアップル創業者のスティーブ・ジョブズのトレードマークでもあった。お仕着せにはなじまない。