11/26 嗅覚について

落ち葉を焚く香りに気づくと、冬の訪れを感じ、夕暮れまで駆け回って遊んだ遠い日の記憶が呼び覚まされる。都心で燃しているのではないだろう。遠く離れた山や田畑から澄んだ空気が運んできたものか。顔を上げて、見えない煙がたなびくその先をたどりたくなる。

五感の中でも嗅覚にはなぞが多い。視覚や聴覚は光や音といった物理信号をとらえる。対して、嗅ぐという行為は大気中の化学物質を感知している。つまり人は揮発しない物の匂いは知ることができない。校庭の鉄棒の匂いと聞いて思い出すものは、正確には鉄棒ではなく手のひらの脂に鉄錆(てつさび)が溶けて混じった匂いという。

東大の生物化学研究室のサイトに教わった。嗅覚の仕組みが解き明かされたのは比較的新しく、2004年にノーベル賞をとった。以降、研究は脚光を浴びる。最近では線虫という微生物の高い感度が、医療の世界で話題になっている。体長がわずか1ミリ。にもかかわらず人間の3倍、犬の1.5倍もの関連遺伝子を持つ。

その超能力を生かし病気を見つけようというのだ。早期発見が難しい膵臓(すいぞう)がんも線虫なら嗅ぎわけられる。そううたってスクリーニングの検査キットを製品化する大学発ベンチャーも現れた。嗅覚がどこか軽んじられてきたのは「感覚的」すぎたからなのだろう。数値化されれば新たな科学の地平を切り開くかもしれない。