12/1 中村哲さん

「極月の人々人々道にあり」(山口青邨)。極月とは1年が極まる月、つまり12月のことだ。さまざまな事情を抱え、往来を慌ただしく通り過ぎる人々。そんな街角の情景を吟じた一句だろうか。今年もいつの間にか、押し詰まってきた。きょうから、師走である。

この季節になると、思い出す人がいる。3年前の12月4日。アフガニスタンの東部で、イスラム原理主義者の凶弾に倒れた医師の中村哲さんである。先日、ミニシアターで「荒野に希望の灯をともす」という映画が上映されていた。なぜ、病を治す医者が井戸を掘り、用水路を建設したのか。その経緯がよく分かる作品だ。

当地では、度重なる干ばつによる乾きと飢えで、人びとは命を落とした。医療には限界がある。大河から水を引き、乾燥した大地を潤せないか。用水路の建設を発想したのだ。なんと柄の大きな構想だろう。物資の乏しい地でそれを実現してしまうところがすごい。没後、その生きざまは日本の教科書でも取り上げられた。

クリスチャンであった中村さんは、撃たれることも覚悟し、治安が悪化するアフガニスタンに赴いたのだろうか。ふり返れば、そんな思いも募る。

「一粒の麦もし死なずば…」という聖書の言葉を胸に刻んでいたのか。人それぞれに進むべき道がある。中村さんの生と死を思うとき、冒頭の句の味わいもまた増すのである。