12/9 ゼロコロナ緩和

条件反射の研究で知られる生理学者のパブロフは犬を使って実験をしているとき、思わぬ障害につまづいた。実験机の台に乗せ、足にゆるい輪をはめてみたところ、時間がたつにつれて興奮し、逃げようとして暴れ出した。これがずっと続き、実験をいったん中断した。

犬のこの反応は何を意味しているのか。いろいろな仮説を考えてみて、パブロフはある結論にたどり着いた。「たいへん単純なことで自由を求める反射である」(「大脳半球の働きについての講義」)。自分の活動が縛られ続けることに耐えられない。これは、あらゆる生物の持つ極めて重要な反応のひとつだと指摘した。

武漢市で原因不明の肺炎が見つかってから3年、中国は厳しい行動制限を柱とするゼロコロナ政策を緩めた。住民の抗議を受けた決定だという。服従が条件づけられたかのように見える国で、反発の声を上げる勇気に驚かされる。感染者を強制的に隔離するやり方を改め、店舗に入るとき陰性証明を求めるのもやめる。

暮らしを昨日より豊かにしさえすれば、国民は文句を言うまいとの発想がこの国にはある。パブロフは実験を続けるため、餌づけをして犬をおとなしくさせた。だが人間は、食べ物が足りればそれで満足するような生き物ではないはずだ。現代の皇帝たちが力を誇示した年が暮れようとするなか、自由の尊さをかみしめる。