12/15 病の改名の意義

認知症とはよくできた名前だと、身内が発症してつくづく実感した。一般には物忘れのイメージが強いが、そう単純な病気ではない。ここがどこで今がいつか。文字通り空間と時間を認知する能力がじわじわと失われる。ボケと痴呆という語感では実態を伝えていない。

2002年まで精神分裂病と呼ばれていた統合失調症も、症状をよく反映した言い換えといえる。そして長らく不治の病だった結核。古くは労咳といわれていた。結核菌が原因とわかった明治の半ばから、次第に変わっていった。病名が見直される背景には医学の進歩がある。と同時に、偏見をなくす闘いが原動力だった。

現代人の病である糖尿病に今、改名運動が起きている。日本糖尿病協会による患者アンケートでは9割が病名に抵抗感や不快感を覚えていたそうだ。食べ過ぎや運動不足だけが原因との思い込みから「不摂生の報い」と冷たい視線が注がれがちだ。いわれのない差別にさらされないようにと医師と患者団体が立ち上がった。

名称が変われば1世紀ぶり。医療の現場では慎重論もあると聞く。「病名をつけられた当事者の気持ちを尊重することこそが治療だ」。かつて病名変更の意義を調べた精神科医の大野裕氏は日経新聞連載の「こころの健康学」でこう記していた。改名で直ちに偏見がなくなるものでもない。でも、病を正しく知る好機になる。