12/16 杜撰の競演

その昔、中国に杜黙という詩人がいた。この人の作品は音律に合わないことが多く、とても評判が悪かったらしい。それで杜の撰(詩文づくり)のような、いい加減な仕事を「杜撰」と言うようになったそうだ。しばしば新聞の見出しにもなる「ずさん」の語源である。

詩人の名は「杜」姓の別人という説もあって判然としない。いずれにせよ、熟語になってはるか後世にまで伝わるのだからデタラメぶりは際立っていたのだろう。もっとも現代には、それをしのぐ逸脱がある。北海道・知床半島沖の観光船沈没事故は、いくつもの手抜かりが重なって惨事に至ったことが鮮明になってきた。

運輸安全委員会の報告書によれば、船首付近のハッチは蓋の留め具が摩耗していた。高波で蓋が開き、そこから海水が流入。甲板下に船倉や機関室を区切る3枚の隔壁があったが、いずれも穴が開けられていたため浸水が全体に及んだ。外れたハッチの蓋は客室前面のガラス窓に当たって割れ、大量の水が流れ込んだ。

ことの次第は単純である。沈没は避けられたに違いない。なのに悲劇は起きた。事故の3日前には、国の検査を代行する日本小型船舶検査機構がこの観光船を調べ、異常なしのお墨付きを与えていたという。くだんの詩人も逃げ出す「杜撰」の競演ではないか。冷たい海で20人が亡くなり、6人の行方が分からないままだ。