12/24 クリスマス休戦

第1次世界大戦中の1914年12月25日朝。最初に1人のドイツ兵が腕を振っているのが見えた。続いて何人かが塹壕から出てきた。銃は持っていない。英国兵は撃たなかった。やがて敵対する両軍兵士は杯をあげ、たばこを交換しサッカーに興じて、降誕祭を祝った。

世にいう「クリスマス休戦」である。激烈を極めた西部戦線で起きたとされる。軍の公式記録には残っていない。士気が下がるからとその後は禁じられた。だが、兵士らが故郷に書き送った手紙が「奇跡」を伝えている。映画「戦場のアリア」や絵本「世界で一番の贈りもの」の題材になったからご存じの方もいるだろう。

「汝の敵を愛せよ」とイエスは説いた。キリスト教徒ではない身にも、それがいかに尊く、難しい教えかはわかる。クリスマスの精神とは愛と慈しみだ。憎しみをひととき武器のそばに置き、互いにゆるしあい、友のように交わった独英の男たちは、その教えを正しく実行したのだろう。誰に命令されたわけでもなく。

ウクライナ侵攻から10ヶ月。ロシア政府は聖夜や新年に休戦するつもりはないという。しかし、最前線で行動を決めるのは1人の兵士、血の通う人間だ。いま一度、奇跡よ起これと願わずにはいられない。ウクライナではクリスマスを2度祝う。1度目は明日25日、そして2度目は1月7日。チャンスはまだ、きっとある。