3/1 ひまわり

「駅」という言葉は、どこかもの悲しい。これまで、どれほどの人びとの出会いや離別の場になったのか。古里の駅から戦地に出征する親族を見送った。でも、それが今生の別れになってしまった。セピア色のつらい記憶をお持ちの戦中世代の方も、おられるかもしれない。

第2次世界大戦のさなか。各国の兵士が駅から戦場に向かった。1970年に公開された映画「ひまわり」の別れの場所は、イタリアのターミナル駅だった。ソ連戦線に赴く夫を妻が見送る。戦後、行方不明になった夫を捜しに妻は単身、ソ連に渡った。奇跡的に再開を果たすのだが…。動画配信サービスで視聴した。

東西冷戦下のソ連でロケが行われた。死んだ兵士たちが埋葬された、と作品で描かれる広大なひまわり畑の風景は、ウクライナで撮影されたそうだ。行軍中に倒れた夫は記憶を失い、敵国の美しい娘に救護された。彼女と結ばれ、戦後も当地にとどまったのだ。元夫婦はそれぞれの道を歩む。2人の永久の別れも駅だった。

きのうの本紙で、ウクライナ国境に近いポーランド南東部の街、プシェミシルの駅舎の光景を現地入りした記者が伝えた。戦乱を逃れた女性の肉声が胸に迫る。一方、この駅に向かうウクライナの男たちの姿も、メディアは報じる。近隣国での出稼ぎを中止し、祖国防衛に赴くのだ。映画ではない。この世界の現実である。