2023/1/1

石田波郷の句

・2022年の世相を示す漢字は「戦」

・年末に池袋で行われていた生活困窮者の相談会

ウクライナを支援する慈善団体に羽毛コートを寄付した記者の知人

人間性に根差した作風で知られる石田波郷に、こんな秀句がある。「かすかにも胸いたみつつ去年今年」。俳人は戦後、肺の病が悪化し、長く伏せっていた。生命の危機は脱し、再起への希望は兆す。だが、胸のうずきは続くのであった。新しい年を迎えてもなお…。

彼の境涯を知る愛好家なら、病状の句と解釈するかもしれない。でも、頭を空白にして今、この短詩と向き合うと、別の感慨も生まれるのである。年をまたいでもなお、消え残る心のいたみが、人それぞれにあるのではないか。思えば2022年の世相を示す漢字は「戦」だった。「争」「命」「悲」なども上位に入った。

みそかに東京の街を歩いた。夕方、JR池袋駅近くの公園に多くの人が集まっていた。NPO法人が生活困窮者の相談にのり、年越しの弁当を配布していたのだ。何かの偶然で競争社会に適合できず、仕事や住まいを失ってしまう。見て見ぬふりはできない。支援者はそう語っている。

記者の知人はこの冬、羽毛コートを慈善団体に寄付した。ミサイルが降る極寒の地に届けるために。平穏に暮らすことに、後ろめたさがあるのだという。私たちは日々、仕事に追われ、自分のことで精いっぱいだ。でも、かすかな胸のいたみを忘れずにいきていく。波郷の句をそう解釈し、新年の道しるべにしたい。