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ドストエフスキー著「賭博者」のカジノのルーレットでゼロに賭け続ける老女

・ゼロコロナ、実質ゼロ、ゼロゼロ融資

・午前0時を人類滅亡の瞬間とみなす世界終末時計

 

「もういちど、zeroだよ!できるだけたくさん賭けるんだ!」。ドストエフスキー著「賭博者」の有名なセリフだ(亀山郁夫訳、光文社)。カジノのルーレットで富豪の老女が狂ったようにゼロに賭け続ける。通常はそこにボールが入れば胴元の総取りである。

だが、自分が賭けて当たったなら、儲けが35倍になって戻ってくる。イチかバチか。自身、ギャンブル依存症だった文豪のスリリングな描写がさえわたる。ゼロは独特の緊張感をもつ数字だ。ゼロコロナ、カーボンゼロ、ゼロゼロ融資。目標でも標語でも、ついた途端に妥協を許さない絶対的な響きを帯びるのだろう。

言い換えればどこか生身の人間の感覚からかけ離れている。無理がある。コロナの感染者を皆無にしようと国民を押さえつけた中国は失敗した。2050年の脱炭素目標はいつも「実質ゼロ」だ。企業を救う「利子なし担保なし」融資は3年の猶予が終わり、今年から返済が本格化するという。倒産が相次ぐかもしれない。

カウントダウンを想起させるゼロはときに恐怖心を呼び覚ます。午前0時を人類滅亡の瞬間とみなし残り時間を示す世界終末時計。米科学誌が毎年1月に公表する。20年から過去最短の100秒だったが、それもウクライナ侵攻前のこと。核の脅しを厭わぬ国が現れ、どれほど針は進んだか。命を道連れにする賭けは御免だ。