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・ドラマ「孤独のグルメ」で井之頭五郎は、「サンマのなめろう」に遭遇する。

・サンマの水揚げ量がここ数年著しく減少し、千葉県の銚子漁港では昨年ゼロになった。

親潮の流れが変わり群れが南下しにくくなっているのに加え、燃料費高騰やウクライナ危機も影響している。

・五郎がサンマを食べて満腹したのも10年前の光景だ。

 

九十九里浜の食堂で、主人公の井之頭五郎は「サンマのなめろう」に遭遇する。新鮮な魚の身をたたき、ネギや味噌を加えた房州の郷土料理である。「アジで作るより甘いんです」と言われてご飯とともにかきこみ、いつものように独り言。「おお甘い。本当に甘いぞ」。

テレビドラマ「孤独のグルメ」に、以前こんな一編があった。目の前の海に、サンマの大群がやってくる土地ならではの贅沢だろう。もっとも、こういう味覚はいまや幻に近い。著しい不漁で、昨年は千葉県の銚子漁港へのサンマの水揚げがゼロになった。記録の残る1950年以降では初めての事態だという。

北海道や東北の漁港でもすさまじい減り方である。全国さんま棒受網漁業協同組合の統計によると、昨年の全国の水揚げ量は1万7910トンと4年連続で過去最低を記録した。かつては20万トンを超すのが普通だったから、落ち込みの激しさがよく分かる。明治の昔、海の色を変えるほどとれたのに消えていったニシンのようだ。

親潮の流れが変わり、群れが南下しにくくなっているらしい。燃料費高騰で操業を見合わせる漁船が増え、ウクライナ危機がロシア海域での操業を阻んでもいる。当たり前にあると思っていた食の、なんという逃げ足の早さか。ドラマの五郎は満腹し、こうつぶやく。「食った、食った。大漁だ、大漁だ」。10年前の光景である。