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・左手だけでピアノを弾く舘野泉さんは、67歳で右半身不随を患った。左手のピアニストを志したとき、周りは心配したが、世界中で年50回以上の演奏をする活躍は周知のとおりだ。

・現役引退を表明した車いすテニスの国枝慎吾選手は四大大会とパラリンピックを制し、世界ランキングは1位だ。その活躍ぶりはパラスポーツの見方も変えた。

・「できない」と考えるより、「枷」を取っぱらい一歩を踏み出した。技巧を超えて2人が人の心を揺さぶる理由がそこにある。

 

「君には文才がある。執筆活動に力を入れてみたら?」「写真もうまかったね。そっち方面はどうかな」。ピアニストの舘野泉さんが脳出血で倒れ、右半身不随になったとき、友人たちはこんな言葉をかけて励ました。ピアノは、もう弾けない。そう思っていたからだ。

「ピアノは2本の手で弾くもの」。舘野さん自身も目に見えない枷にとらわれていたと著書「命の響」で回想している。2年後、67歳で左手のピアニストとして再起を志す。周りはまた心配した。興味本位のお客さんが来てくれても長くは続かない。世界各地で年に50回以上、演奏をするその後の活躍は、周知のとおりだ。

車いすテニスの国枝慎吾選手が現役引退を明らかにした。四大大会とパラリンピックで頂点に立ち、世界ランキングは1位。車いすテニスはツーバウンドでの返球が可能だ。が、見事なチェアさばきで右に左にターンしつつ、多くをノーバウンド、ワンバウンドで打ち返す。スーパープレーはパラスポーツの見方も変えた。

国枝選手は子供のころから車いすに乗り、障害のあるなし抜きに、学校の友だちとスポーツを楽しんだ。舘野さんの左手はいま、ピアノの88鍵上を華麗に躍動してメロディーと和音を奏でる。「できない」と考えるより、「枷」を取っぱらい、一歩を踏み出した。技巧を超えて2人のプレーが人の心を揺さぶる理由だろう。