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・若い世代で短歌がブームだ。SNSとの親和性が高いのだと言われている。

・言葉の刃が飛び交うネット空間と違い、和歌の世界では人を傷つける歌は見当たらない。人の本性は歌道にこそあるのだと信じたい。

 

若い世代で短歌がブームだという。1987年から始まった東洋大学の「現代学生百人一首」には今年度、国内外から約6万6千首の応募があった。詠み人の多くが中学生、高校生だ。入選作を読めば三十一文字に込められた10代の感性がまぶしく、少しうらやましい。

コロナ下での閉塞感を嘆く一方で、こんな一首がある。「文化祭初の対面ミュージカル拍手はこんなに嬉しかったか」。日常が戻りつつある喜びがあふれ出る。「お父さん口きかなくてごめんなさい思春期とやらがきてしまったの」。作者は中学2年生。親への反発と感謝が交錯するのは世が移ろっても変わらない。

それにしてもなぜ短歌?しばしば言われるのはSNSとの親和性だ。限られた文字にストレートな感情をのせ、共感を得る。「個性を色濃く出すように求められてきた世代にとって、ありのままの自分を受け入れてくれる短歌の温度感が心地よいのでは」。選考委員長を務めた高柳祐子准教授の分析である。

高柳さんによると、古典的な和歌の世界では目立とうとせず、誰からも非難されない表現が望まれる。そのために推敲を重ねる。古来の作法を心得ているのか、送られてきた作品の中に他人を傷つけるような歌は見当たらないそうだ。言葉の刃が飛び交うネット空間ではなく、歌道にこそ人の本性が表れるのだと信じたい。