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・巷には「幸せ」が溢れている。書店には「幸せ」「幸福」の指南本がたくさんある。

ウェルビーイング(心身の健康や幸福)という経営用語もしばしば耳にするし、欧米には「CHO(チーフ・ハピネス・オフィサー)」なる役職もあるらしい。

・しかし、怒りや悲しみという幸福感の対局にあるネガティブな感情が歴史的に社会の不正義を正してきたのも事実だ。そして、もっと幸せを、と追い立てられる様子はとても幸福には見えない。

 

最近、ちょっと気になっている。巷にあふれる「幸せ」のことである。スーパーのチラシが目を引いた。しあわせ絆牛。肉じゃがにして美味しく食した。ポテトチップスの「しあわせバタ〜」。ハチミツやバターの風味は新鮮だったが、メタボ腹には少々こたえた。

書店をのぞくと、棚には「幸せ」「幸福」の指南本が並ぶ。四方八方、幸せに取り囲まれているようで、みぞおちのあたりが何やらぞわぞわしてくる。いや、気持ちは分かる。疫病、戦争、物価高。世間は暗いニュースばかり。名前やタイトルだけでも幸せへ誘うものを手に入れていい気分に浸りたい。

ウェルビーイング」(心身の健康や幸福)という経営用語もしばしば耳にする。幸福な社員は生産性も高いのだとか。欧米には「CHO(チーフ・ハピネス・オフィサー)」なる役職もあるそうだ。幸福の達成度は「科学」で測れるらしい。耳には心地よいが幸せの感じ方は人それぞれ。こちらはできれば遠慮願いたい。

私たちは幸せ願望に支配されている。欧州の心理学者らが記した「ハッピークラシー」(みすず書房)を読んで考えさせられた。幸福感の対局にある怒りや悲しみといったネガティブな感情は、歴史的に社会の不正義を正す原動力にもなってきた。それに、もっと幸せを、と追い立てられる様子は、あまり幸福とはいえない。