2/11

「朝起きて見れば一面の銀世界。雪は降りやみたれど空は猶お曇れり」。1889年2月11日、大日本帝国憲法公布の日を、正岡子規は後にそう振り返っている。「余もおくれじ」と急ぐ運動場では同級生らが祝憲法発布などと書かれた旗を掲げていた。

特別な日の興奮を、東京では珍しい雪景色とともに記憶にとどめたことが伝わる。子規は病に倒れ、長く病床に伏せ34歳で亡くなる。冒頭の文は死の前年に記したものだ。若かった頃の雪を、どんな思いで振り返ったのか。晩年にこんな一句がある。「いくたびも雪の深さを尋ねけり」。病床にあってもなお雪は俳人の心をとらえた。

いまJR東日本の駅で「冬を取り戻すんだ」という広告を見かける。雪を背にスキー服の若い女優さんがカメラをまっすぐ見つめている。30年余り前に始まった同社のスキー旅行のキャンペーンで、本田翼さん、川口春奈さん、広瀬すずさん、浜辺美波さんらが歴代のヒロインを務め、ドラマ仕立てのCMを放映してきた。

恋愛や女性の友情など時代ごとに描くものを決めてきた。今年のテーマは新型コロナウイルス禍で失われた高校生活だという。「フツーの青春」を取り戻そうと雪の中を仲間たちとはしゃぐCMの映像は、若者たちの夢だろうか。卒業式も今年はマスク不要だ。10年後にも残る思い出を、今からでもたくさん作ってほしい。