3/3 神宮外苑再開発

神宮外苑の再開発が計画されている。大正時代にここが作られたとき、財界人でつくる「奉賛会」は明治天皇の事績をたたえる聖なる場所だということを忘れるなと申し入れたという。東京都は事業を認可したが、樹木伐採やイチョウ並木の保全など心配の声が上がる。世間の共感を得る努力が欠かせない。

 

イチョウ並木の美しい明治神宮外苑は大正のむかし、全国からの寄付をもとに造成が進められた。完工までに十数年。財界人らでつくる「奉賛会」がこれを神宮側に引き渡すとき差し入れた一札がある。この空間のトリセツともいうべき「外苑将来ノ希望」なる文書だ。

明治天皇の事績をたたえる公園だからその理想を失うな。そもそも上野や浅草とはわけが違う。神宮に関係ない建物はNG。イベント開催にも注意せよ。平たく言えばこのようなことがこまごま書いてある。あくまで神宮内苑と一体の、聖なる場所だという意識である。しかし現実にはそうもいかず、曲折をたどってきた。

国立競技場のデザインをめぐる先年の大騒ぎも、外苑地区ならではの出来事だったろう。そんな特別な一画で、こんど再開発が始まる。神宮球場秩父宮ラグビー場を建て替え、周辺には商業施設やホテルができるという。東京都は事業を認可したが、樹木の伐採や、イチョウ並木の保全を心配する声もあって波乱含みだ。

「将来ノ希望」を書いた先人たちは、この転変をどう眺めていることか。外苑は当初から現在まで「さまざまな要素を飲み込み続ける、まるでブラックホールのような場でもある」(今泉宣子「明治神宮ー『伝統』を創った大プロジェクト)。こういう空間であるからこそ、世間の共感を得る努力が欠かせない。